みんなで作ろう!科学工作

電気と磁気の力で回る 身近な材料で作る簡易モーター

Tags: モーター, 電磁気, 電気工作, エネルギー変換, STEAM教育, 科学工作

はじめに

私たちの身の回りには、モーターが使われている電化製品が数多く存在します。扇風機、洗濯機、自動車、そしてロボットなど、モーターは現代社会を支える重要な技術の一つです。これらのモーターは、電気のエネルギーを回転する運動エネルギーに変換する装置であり、その仕組みには電気と磁気の興味深いつながりが隠されています。

この活動では、ご家庭にある身近な材料を使って、電気の力で回転する簡易的なモーターを作成します。この工作を通して、電気と磁気の関係、そしてそれがどのようにして回転運動を生み出すのか、その基本的な原理を体験的に学びます。科学的な探求心と工学的な思考力を同時に養うことができるでしょう。

活動概要

この簡易モーター作りは、電気と磁気の相互作用を利用したエネルギー変換の原理を学ぶことを目的としています。コイル、磁石、電池といったシンプルな部品を使用し、モーターの基本的な構造と動作原理を理解することを目指します。

材料と準備

活動を始める前に、以下の材料と道具をご準備ください。多くはご家庭や近所の店舗で入手可能です。

準備:

  1. ペーパークリップを加工します。クリップを広げ、エナメル線の軸が乗るような形状に整えます。電池の両端にセロハンテープで固定できるように、片側を平らにしておくと良いでしょう。
  2. 台座(厚紙や木片)に乾電池をセロハンテープで固定します。電池の両端に合わせて、加工した2つのクリップをセロハンテープでしっかりと固定し、エナメル線の軸受けとします。この際、クリップの高さが揃い、コイルがスムーズに回転できる位置に調整することが重要です。
  3. 磁石を準備します。磁石は台座の中央、電池のすぐ下に配置します。セロハンテープで固定しても良いですが、ネオジム磁石は金属にくっつくため、台座を金属製にするか、台座に金属片を取り付けてそこに磁石を固定する工夫も有効です。コイルが回転する際に、コイルと磁石が近すぎず離れすぎない位置関係になるように配置します。

手順

さあ、簡易モーターの製作を開始しましょう。以下のステップに沿って進めてください。

  1. コイルを作る:

    • 円筒形の芯(乾電池など)にエナメル線を約20回から30回程度、丁寧に巻き付けます。巻き始めと巻き終わりの線が、コイルの軸と平行になるように、それぞれの長さが5cmから7cm程度残るようにします。
    • 巻き終わったら芯から外し、残したエナメル線の端でコイルがほどけないように数回巻き付けて固定します。このとき、コイルの輪の内側に巻き込むようにすると、回転軸が安定しやすくなります。
  2. エナメル線の被膜を処理する:

    • これがモーターが回転するための最も重要な工程の一つです。コイルの両端に残したエナメル線の被膜を剥がします。
    • 片側の端: コイルの軸となるこの線は、先端から根元まで、周囲の被膜を完全に剥がします。サンドペーパーで擦るか、カッターナイフの刃で丁寧に削り取ります。
    • もう片側の端: こちらもコイルの軸となる線ですが、こちらは周囲の被膜を半分だけ剥がします。つまり、線が円柱状であるとして、その円周の半分だけ被膜を残すということです。例えば、線が横向きになっている状態で、上面だけを剥がし、下面はそのまま残す、といった具合です。サンドペーパーやカッターナイフを使う際は、線が傷つかないように慎重に行います。この「半分だけ剥がす」処理が、後述する整流子の役割を果たします。
  3. 組み立てる:

    • 準備した台座に固定したクリップの軸受けに、作成したコイルのエナメル線の両端(被膜を剥がした部分)を乗せます。
    • コイルが水平になり、スムーズに回転できるか確認します。必要に応じてクリップの位置や高さを調整します。
    • 磁石を台座の中央、コイルの真下に配置します。磁石とコイルがこすれないように注意してください。
  4. 通電して動作確認:

    • コイルのエナメル線の端がクリップにしっかりと接触していることを確認します。乾電池の端子からクリップを通してコイルに電流が流れる状態になります。
    • コイルが回転し始めるか観察します。最初は手で軽く押して回転を助けてみてください。
    • もし回転しない場合は、エナメル線の被膜が完全に剥がれているか(特に完全に剥がす側)、半分だけ剥がす側の被膜が適切に残っているか、クリップとエナメル線の接触が良好か、磁石の位置が適切かなどを確認し、調整します。

科学的原理・工学的思考

この簡易モーターが回転する仕組みは、電気と磁気に関する基本的な物理法則に基づいています。

  1. 電流と磁場: エナメル線で作ったコイルに乾電池から電流が流れると、その周囲に磁場が発生します。電流が流れる導体には磁場が発生するという物理法則(電磁誘導の逆)によるものです。コイル状に巻くことで、この磁場は強められます。つまり、電流が流れているコイルは「電磁石」となります。
  2. 磁石と磁石の間に働く力: 台座に置いた磁石(永久磁石)と、電流が流れて電磁石となったコイルの間には、互いの磁場によって力が働きます。この力は、両者のN極とS極の位置関係によって、引き合う力(引力)になったり、反発し合う力(斥力)になったりします。
  3. フレミングの左手の法則とトルク: コイルに流れる電流と、台座の磁石によって作られる磁場との相互作用により、コイルの辺には力が働きます。この力の向きは「フレミングの左手の法則」で知られる通り、電流の向きと磁場の向きによって決まります。コイルの片側の辺には上向きの力、もう片側の辺には下向きの力が働き、この力のペアがコイルを回転させようとする力、すなわち「トルク」を生み出します。
  4. 回転を維持する仕組み(整流子): モーターが回転し続けるためには、コイルが半回転するたびに、コイルに流れる電流の向き(または磁場の向きに対する電流の方向)を切り替える必要があります。そうしないと、力が常に同じ方向に働いてしまい、半回転したところで回転が止まってしまうか、逆方向に回ってしまう可能性があります。
    • この簡易モーターでは、エナメル線の両端の被膜の処理がこの役割を果たします。片側の端を完全に剥がし、もう片側の端を半分だけ剥がすことで、コイルが特定の角度に達したときに、半分だけ被膜を剥がした側の線とクリップの接触が切断されます。これにより、瞬間的に電流が流れなくなり、慣性でコイルが少し回転します。
    • コイルがさらに回転して再び接触すると、電流が流れますが、このときコイルの磁極の向き(電磁石としてのN極・S極)は、台座の永久磁石に対して先ほど回転する力が働いたときとは逆の位置関係になっています。しかし、電流の向きが切り替わる(簡易的な整流作用)ことで、引き続き一方向への回転力が働くようになっています。
    • より正確には、半分剥がした側の線は、回転することで導線とクリップの接触・非接触を繰り返します。完全に剥がした側は常に接触します。これにより、コイルの回転角度に応じて電流が流れたり止まったりすることで、連続的な一方向への回転を可能にしています。市販の直流モーターでは「ブラシ」と「整流子」という機構がこの電流切り替え(スイッチング)の役割を担っています。この簡易モーターのエナメル線の被膜の処理は、その簡易版と言えます。
  5. 工学的工夫: スムーズな回転を実現するためには、クリップを軸受けとして適切に配置すること、コイルが磁石や台座と接触しないようにすること、コイルのバランスを取ることなど、構造的な工夫が必要です。コイルの巻き方や線の太さ、磁石の強さなどもモーターの性能に影響を与える工学的要素です。

発展・応用例

この簡易モーター作りから、さらに学びを深めるための発展的な活動がいくつか考えられます。

安全上の注意

まとめ

身近な材料を使った簡易モーター作りを通して、私たちは電気と磁気という二つの物理現象が連携して回転運動を生み出す仕組みを体験しました。電流が磁場を生み出し、その磁場が別の磁石と相互作用して力が働くという、電磁気の基本的な原理が、モーターという形で身近な技術に応用されていることを実感できたことでしょう。

この活動で学んだ電磁気の知識やエネルギー変換の視点は、扇風機や電気自動車などの日常的な技術だけでなく、リニアモーターカーや電磁誘導を利用した送電など、さらに高度な科学技術への理解にも繋がります。科学の原理がどのように工学的な課題解決に応用されるのかを考える良い機会となり、子供たちの知的好奇心と探求心を育む一助となることを願っています。